■インフルエンザ(流行性感冒)

インフルエンザウィルスにはA型、B型、C型の3つのタイプがあります。C型は殆ど流行しませんので、主に人間で流行するのはA型及びB型となります。現在、主に流行をしているのはA香港型、Aソ連型、B型です。その年によりおなじA香港型やソ連型でも、流行株が少し異なります。何年に、または十何年に一回大きく型が異なることがあります(下図と説明を参照)。そうすると大流行になり、死亡者も多数出ることが多いです。
□インフルエンザウイルスの性状
インフルエンザウイルスは直径が1万分の1ミリメートルの球形をしたエンベロープという脂質でできた膜をもつRNAウイルスです。

写真は、電子顕微鏡で撮ったインフルエンザウイルスの像です。落花生のような形をしているのがウイルスで、自然状態では長細い形をしています。

ウイルスの周囲にヘマグルチニン(Hemagglutinin)、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase) などの突起を見ることができます。インフルエンザウイルスの感染や抗体による防御にはこのヘマグルチニン、ノイラミニダーゼの働きが重要で、ウイルスの型を示す時に用いられるH、Nは HemagglutininのH、NeuraminidaseのNからきています。写真下のウイルスの構造模式図を参考にして下さい。


インフルエンザウイルスの構造模式図


表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニザーゼ(NA)という2種類の糖蛋白がスパイク状に突出していて、その内側に膜蛋白が裏うちし、内部には8本に分節した遺伝子RNAが入っています。

HAはウイルスの細胞への感染に関与し、H1〜15の15型がある。NAはウイルスの細胞からの遊離に関与し、N1〜9の9型がある。NPはウイルスの遺伝子を包むタンパク質、A、B、Cの3つの型がある。これによりA型、B型、C型等のインフルエンザウイルスと決定される。その内A型ウイルスには、先に説明したHAとNAの種類によっていくつもの亜型に分けられています。Aソ連(H1N1)型とかA香港((H3N2)型というのがこれに当たります。

□症状
普通の風邪に比べて全身症状が強いのが特徴です。悪寒・戦慄とともに高熱が出て、全身倦怠感を訴え、頭痛や咽頭痛を認め、関節痛、筋肉痛、腰痛なども伴い、腹痛、嘔気、嘔吐、下痢、食思不振などの胃腸症状が出たり、鼻汁や咳などの呼吸器症状も伴います。

現在は抗ウィルスで症状が大幅に軽減されますが、抗ウィルス薬を使用しないときの症状についてまず説明します。

40℃以上の高熱が出ることが多いのですが、中には出始めは37,5℃くらいの微熱のこともあります。通常は38,5℃以上の熱が出ます。熱は長いと1週間続くことがあります。典型的な熱型は2峰性です。3〜4日高熱が続いて、一旦下がり、その後再び発熱して、その後に熱が治まります。

高熱が出る前に悪寒(ひどい寒気)・戦慄(ブルブル震える)が生じます。

抗ウィルス薬を使用したときの症状についての説明です。

受診されて、インフルエンザと確実に診断され(今はそのような診断薬を使用する医療機関が多い)、抗ウィルス薬を使用するまでの症状は上記と変わりません。抗ウィルス薬は発症後48時間以内に使用しないと効果がないので注意が必要です。インフルエンザの流行る時期に、熱といつものかぜと違う感じがあったら早く受診してください。受診後抗ウィルス薬を服用して、12時間から24時間以内に解熱します。それとともに全身症状も消えるのが普通です。あまりに早く症状が消えるので、治ったと勘違いして抗ウィルス薬を途中で勝手に止める患者さんがおられます。そうするとまたぶり返してきます。

□診断・治療
A)抗ウィルス薬
抗ウィルス薬を説明するときにはまずインフルエンザウィルスが感染し、増殖するする形態から話をしなければいけません。

インフルエンザウィルス表面抗原のヘマグルチニン(HA)が呼吸気道細胞表面にあるシアル酸に結合し,結合したウィルスは細胞内にエンドソームとして取り込まれ,エンドソーム膜とウィルスエンベロープは膜融合により脱殻し,細胞内にリボタンパク質複合体(RNP)を放出する.放出されたRNPは核に移動し,ウィルスRNA(vRNA)鎖をもとにRNAの複製とウィルス蛋白質が合成され,それぞれが組み合わさり,新しいウィルスが宿主細胞から出芽し遊離する

(図)

抗ウィルス薬は大きく分けて二つあります。ノイラミニダーゼ阻害剤とM2蛋白阻害剤である。

ノイラミニダーゼ阻害剤
1)作用機序: インフルエンザウイルスはその表面上のHA(血球凝集素)と、ヒトの細胞表面のシアル酸に結合し、細胞内へと侵入し増殖する。合成直後のウイルス表面や、周囲にヒト細胞膜状にはシアル酸が存在するので、NA(ノイラミニダーゼ)はこの不要なシアル酸を切断するように作用する。もし、ノイラミニダーゼ阻害剤が存在すると、HA(血球凝集素)とシアル酸は結合したままであり、ウイルス同士がからまったり、周囲のヒト細胞表面にウイルス粒子が結合したままであり、効率よい再感染がおこりえなくなる。                                                   
2)特徴: 長所                                                             (1)A型でもB型でも全てのインフルエンザウイルス感染症に効果がある。
(2)予防的に使用することができる。
(3)耐性株を作りにくい。

欠点                                                         感染早期(48時間以内)に使用しないと効果がない。

3)種類: 内服薬と吸入薬2種類があります。

吸入薬(リレンザ)はインフルエンザのA型、B型の両方に効果があります。副作用も少なく、耐性菌の出現も少ないし、割合に早期に症状が消失するので、優れたお薬です。しかし吸入しなければいけないので、小学生以下の小児には使えませんし、大人でも吸入が下手な方もおられますので、内服薬ほど手軽ではありません。

内服薬(タミフル)には2種類あります。錠剤と粉末です。

NAは宿主受容体を破壊することにより,ウィルスの遊離を促進する重要な酵素であり,タミフルはこのNAに特異的かつ強力に結合することにより,その働きを阻害しウィルスの増殖を抑制する。

M2蛋白阻害剤
1)作用機序: インフルエンザウィルスは、ヒトに感染する際に、ウィルスのエンベロープにあるM2チャンネルにH+が流入して、脱核、ウィルスのリボ核蛋白が宿主核内に侵入して、増殖を行うわけですが、M2蛋白阻害剤はM2チャンネルのH+が流入する部分にくっついて、H+が流入出来なくなることによって、感染細胞核へのウイルス蛋白(ribonucleoprotein)移行を阻害することにより,結果的にウイルス増殖抑制作用を示します。このM2蛋白はA型インフルエンザウィルスにしかなく、M2蛋白阻害剤はA型インフルエンザにしかきかないことになります。
2)特徴: 長所
(1)効果発現が早い
(2)安い

欠点
(1)インフルエンザA型にしか効果がない
(2)耐性株ができやすい
(3)副作用が出現することがある
(4)感染早期(48時間以内)に使用しないと効果がない。

3)種類: 内服薬(シンメトレル)です。錠剤と粉末があります。                      
有熱期間が短縮します。幻覚、妄想、寝言、興奮、不眠などの精神症状が副作用として1000人に2〜3人ありますので,こうした症状がみられたら中止して下さい.         下記は医療法人慶友会のHPから拝借し、一部改変した図である。
2.薄着に 子どもは薄着にしましょう。喘息の子どもはなおさらです。秋から冬にかけて一枚多く着たくなる時期があります。この時期に一枚多く着せるか、着せないかが薄着になるかどうかの分かれ目です。“おばあちゃん子は弱い”といいます。ご老人の皮膚感覚で、子どもを育てるからだといわれています。おばあちゃんはこの時期に一枚多く着せるのです。またちょっと孫が風邪を引くと、“薄着にしているからだ。かわいそうに”と母親に文句を言うのもおばあちゃんです。

薄着にして、冬でも半そでくらいで外を遊びまわっている子に喘息の子はいません。このごろはちっとも見なくなった光景です。


抗インフルエンザ薬一覧
抗インフルエンザ薬の比較
アマンタジン
ザナミビル
オセルタミビル
(商品名:シンメトレル)
(商品名:リレンザ)
(商品名:タミフル)
適応
A型インフルエンザ
A型・B型インフルエンザ
A型・B型インフルエンザ
剤形
錠剤(50mg、100mg)粉末
吸入剤(粉末)
カプセル(75mg)   粉末
投与経路
経口
吸入
経口
投与量
1日100mg、1日2回 (朝、昼)
1回2吸入(10mg)、1日2回(計20mg)
1回1カプセル、1日2回(計150mg)小児:2mg/Kgを一日2回最大1回量75mg
投与開始時期
発症後48時間以内
発症後48時間以内
発症後48時間以内
投与期間
最長7日、症状中止後速やかに中止
5日間
5日間
特徴
抗インフルエンザ薬以外の適応で、比較的広く使われている。A型インフルエンザにのみ有効。米国では1日の投与量は200mgである。
直接患部(上気道)に作用するため、消化器症状などの副作用が生じにくい。専用吸入器が必要。
カプセルや粉末で内服しやすい。また調節が容易
使用上の注意点
腎排泄型であり、腎機能障害が予想される患者では減量投与が必要。高齢者および腎機能障害者において副作用の発現に注意。副作用としての神経症状に注意。
吸入剤のため喘息や慢性閉塞性肺疾患の患者に使用する場合に気道を刺激する可能性がある。吸入のため特殊な吸入器が必要。薬剤の吸湿性が高くブリスターに穴があくと吸入できなくなる。
副作用として消化器症状の出現頻度が高い。慢性呼吸器疾患患者に関する使用も問題ない。糖尿病などの糖代謝障害者で、高血糖をきたした報告がある。
薬物動態
腎排泄
吸入後血中に入った薬剤は腎より排泄、残りの消化管に入った薬剤は、吸収されず糞便中に排出される。肝臓での代謝はない。
肝臓で代謝され、腎より排泄される。
半減期
約10〜12時間
約2.8時間
約7時間
耐性ウイルス
耐性ウイルスの出現頻度は高い
耐性ウイルスの出現頻度は低い
耐性ウイルスの出現頻度は低い

B)鎮痛・解熱剤
インフルエンザにかかった場合にはアスピリン、サリチル酸を含む製剤(市販の成人用バファリン、一部の子供用風邪シロップ、医家用のバファリン、PL顆粒、幼児用PL顆粒など)は絶対に服用しないで下さい。ライ症候群という急性脳症になることがあります。また,ジクロフェナク(ボルタレンなど)、メフェナム酸(ポンタールなど)はインフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる可能性があるので、昔(3〜4年前まで)は座薬としてお出ししていましたので、昔の座薬を使用していけません。

アセトアミノフェン(アンヒバ坐薬,カロナールなど)は安全です。

C)インフルエンザにかかったときの一般的注意
(1) とにかく安静が一番です。抗ウィルス薬で熱は割合早期に下がるので直ぐに暴れがちですが、合併症を引き起こす可能性があり、注意が必要です。
(2) 日本ではまだ厚着をさせて、汗をかかせて熱を下げるということをしていることがあります。高熱時の温めすぎは、鬱熱によりかえって体力を消耗します。少し涼しいくらいの方が心地よく、熱が発散します。
(3) 高熱時には薄着にして、アイスノン等で体を冷やして下さい。急速に熱を下げるときは大きなアイスノンをわきの下、首筋、股にあてると、熱が下がります。
(4) 食べたらもうけもののつもりで、無理じいせず、お子さんの好きなもので消化のよいものを与えましょう。水分を充分にとるように心がけてください。

汗や尿とともに体から熱が逃げていって、熱が下がりやすくなります。


□合併症
1..熱性痙攣 インフルエンザは高熱のため熱性痙攣を起こすことがあります。インフルエンザ脳炎・脳症は痙攣で発症しますので、熱性痙攣との厳密な区別はできません。痙攣が短時間に繰り返す、痙攣時間が長い場合には入院が必要です。
2.インフルエンザ脳炎・脳症 インフルエンザの合併症で最も恐ろしいのはインフルエンザ脳炎・脳症です。発熱後48時間以内に発症します。痙攣、意識障害が起こります。死亡するか、命が助かっても重度の後遺症が残ります。インフルエンザの診断時にお子さんが脳症になるか否かは全く予見できません.痙攣,意識障害などの神経症状が発現するまでは診断はつきません。インフルエンザ脳症は発熱後48時間以内に発症するので、発熱直後が危険です。インフルエンザワクチンをインフルエンザにかかる率は減るのでそれだけ危険性が減ります。
3.インフルエンザ肺炎 インフルエンザの合併症で最も多いのはインフルエンザ肺炎です。熱と頑固な咳がいつまでも続きます。

□インフルエンザ関係のHP
http://www.med.or.jp/influenza/inqa.html インフルエンザQ/A(平成13年度版)
http://idsc.nih.go.jp/others/inf-soron.html インフルエンザの総説
http://idsc.nih.go.jp/others/topics/FAQ2.html インフルエンザをより詳しく知りたい方のために
http://www.keiyukai-group.com/infjoho/infjoho.htm
慶友会HPのインフルエンザ情報
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